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What the Computer Said (日本語版)

Summary:

ポール・フォスターは、ジャクソン博士がまた始めた「相性診断アルゴリズム」なんて、大したものじゃないと思っていた——それが、「自分はストレイカー司令官に恋しているかもしれない」と告げてくるまでは。
今、彼の頭の中はぐるぐるだ。なぜこんなに動揺しているのか、自分でも分からない。

Notes:

この作品は、「謎の円盤UFO」の日本人ファンによって執筆されたものです。
こちらは日本語版で、翻訳ツールを用いて作成した英語版も別途公開しています。

(See the end of the work for more notes.)

Work Text:

 ムーンベースのコントロール室では、ニーナ・バリーとヴァージニア・レイクがお喋りをしていた。

「あら、フォスター大佐。これからお戻りですか?」

 フォスターの姿を認めたニーナが、微笑みを浮かべて声を掛けてきた。

「出発まで、まだちょっと時間があるから、コーヒーでも飲もうかと思ったんだ。でも、キミ達楽しそうだね、なんの話?」
「本部の近くに、新しいレストランが出来たんですけど、レイク大佐がフリーマン大佐とお出掛けになったと仰るので、聞いているんですよ」
「へえ、フリーマン大佐と?」

 ほんの一時だけだが、ヴァージニアと付き合った事があるフォスターは、ちょっと意外そうにレイクを見た。

「出掛けたと言っても、お食事に誘われただけよ。そもそもフリーマン大佐が私と個人的なお付き合いをする訳がないでしょう?」
「どうかな。あれでなかなか、フリーマンも隅に置けない男だぞ」

 フォスターの返事に、ニーナとヴァージニアは顔を見合わせて、それから急に笑い出した。

「なんだいキミ達。なんでそこで笑うかな?」
「だって、フリーマン大佐が……って……」
「ホントに、ポール! あなた何にも解ってないのね」

 やや呆れた様子のヴァージニアに、フォスターは少しだけムッとした。

「一体、なにが解ってないって?」
「フリーマン大佐が、本気で誘う訳ないじゃないですか」

 まだクスクス笑いながら、ニーナが言う。

「そうかな?」
「そうよ。そりゃ確かに、大佐は紳士らしく振る舞っているけど、誘うのは表面だけよ」
「ヴァージニア、それをフォスター大佐が察するのは無理ってものだわ」

 断定するヴァージニアに向かって、ようやく笑いの収まったニーナが真面目な顔で言った。

「あら、どうして?」
「だってフォスター大佐は男性ですもの」

 ニーナの答えに、ヴァージニアはなるほどと頷いた。

「そうね、ポールはフリーマン大佐と食事には行かないわね」
「僕だって、フリーマンと食事ぐらい行くさ」
「でもそれは、デートじゃないでしょ。フリーマン大佐は私達を食事に誘って、形だけはデートにしてるけど、下心が無いと言うか……。つまり簡単に言うと、本命は他にいるけど、プレイボーイのフリをしているってコトよ」
「はあ?」
「それにしても、フリーマン大佐の本命って誰かしら? あの歳まで独身を通しているってコトは、もしかしてもう結婚しているとか?」
「いやだわ、ニーナ。フリーマン大佐の本命って言ったら、司令官に決まってるでしょ」

 ヴァージニアの答えに、ニーナは一瞬真顔になったが、数秒後に笑い出した。
 もちろん、言ったヴァージニア自身も一緒になって笑っている。

「いやだ、今ホントに本気にしたわ!」
「あながち冗談じゃすまないわね、ごめんなさい!」

 笑い転げる彼女達に対して、フォスターは1人笑えずにいた。

 

§

 

 地球に戻るルナモジュールの中で、フォスターは出発の直前に彼女達と交わした会話を反芻していた。

「戻った後は、休暇ですか?」

 同乗しているピーター・カーリンが言った。

「いや、今回は直ぐに本部に行かないと、書類仕事を貯めこんでるから、さっさと手を付けないとマズイんだ」
「そりゃ、気が重くなりますね」
「まいったな、僕はそんなに、陰気な顔をしていたか?」
「まるでもう、これから司令官の部屋に呼び出されるのが確定しているみたいな顔でしたよ」
「キミこそ、帰ったら休暇かい?」
「ええ。実は今回ムーンベースに行く前に付き合い始めたコが居るんですけど、二週間ぶりでしょう? 少し凝ったデートをした方が良いと思うんですけど、なんせ地球に居ませんでしたからね。どこに行ったらいいのやら…」
「それなら、今朝着任したレイクが、本部の近くに良いレストランが出来たと言ってたぞ」
「ええ? わざわざそれだけを聞く為にレイク大佐に通信したなんてバレたら、司令官に睨み殺されますよ!」
「ああ、いや、大丈夫。レイクはフリーマンと一緒に行ったと言っていたから、フリーマンに聞けばイイ」
「う〜ん、フリーマン大佐ですか? ……う〜ん」
「なんだい、その歯切れの悪い態度は?」
「レイク大佐なら、店の雰囲気なんかも詳しく聞けますけど。フリーマン大佐は、ちょっとこう……僕らとジェネレーションギャップがある…とでも言いますか……。そもそも給料が違いますからね、そう気軽に行けるかどうか…」
「なんだよ、少し凝った所に行きたいんじゃなかったのか?」
「それは、そうなんですけど。って言うか、他に知りませんか?」
「そうだなぁ、僕はあまり外でデートをしないし、そもそも最近、あまりデートそのものをしないんだよ」
「どうして?」
「仕事の事を隠すのが面倒だからさ」
「ああ、解りますよ。僕も同じようなところは引っかかります。勤務中に連絡が一切取れないとか、ありますからね。僕も前に付き合っていたコに、それで振られましたから」
「僕なんて、フリーマンに告知にまで行かれてしまったんだぞ。死んだと思ったのに生きて帰ってきたって、せっかく生還しても喜ばれるどころか怒られるって、ワリに合わないよなぁ」
「全くですね。おっと、そろそろ大気圏突入ですね、そちらのパネル操作をお願いします」

 ピーターが地上から迎えに来たキャリアとの通信に入って、2人の会話は途切れた。
 意識を操作に集中……と言っても、フォスターにとってこれらの作業は手慣れた物で、作業をしながらも意識では別の事を考えている。
 そしてやはり、ムーンベースを出る前にニーナとヴァージニアが言っていた事を考えいる。
 実を言うと、フォスター自身、彼女達との会話の何がそんなに引っかかっているのか、解らないのだ。
 フリーマンが諸々の女性隊員に声を掛けるのは、単なる社交辞令の域を出ていないと言われてしまえば、それだけの事だ。
 別段、彼が本当に多数の女性と浮名を流していようが、またそうでなかろうが、そんな事はどうでも良かった。
 では一体、なにがそんなに引っかかっているのだろう?
 自分でも訳が分からず、フォスターは指先に棘が刺さっているような苛立ちを感じ始めていた。

 

§

 

 本部に戻ったフォスターは、ピーターに話した通り、書類仕事を片付け始めた。

「お? 珍しいな、キミが書類仕事か」

 フリーマンが顔を出した。

「仕事は持ち帰らないコトにしたんです。命に関わりますから」

 フォスターの返事に、フリーマンは苦笑する。

「アレは、さすがのキミもまいったろう? ま、あんなコトが頻繁にあったら、ストレイカーの身も持たないからな、手加減してやってくれ」
「次はきっと、無罪を証明したところで、司令官に射殺されますよ」
「どうかな。私はこれでも、キミの存在に危機感を覚えているんだぞ。ヘンダーソン長官辺りは、もう既に私はお払い箱で、SHADOのナンバーツーはキミだと思っているようだしな。ストレイカーも、あれで結構キミを頼りにしてるんだ」

 はははと笑いながら、フリーマンは去っていった。
 意識を書類に戻し、フォスターは仕事の続きに取り掛かる。

「大佐、コーヒーをどうぞ」
「やあ、ありがとう」
「珍しいですね。デスクに向かってる大佐が楽しそうだなんて」

 デスクにカップを置いた女性隊員は、クスクス笑いながら離れて行った。
 確かに、言われたみればそうだ。
 自分は先程まで、なんだか正体の分からない苛立ちに見舞われていた筈なのに。
 原因がさっぱり判らない。
 だが、そもそも苛立ちの原因も、未だに判っていないのだ。
 ただでさえ進まない書類を前に、フォスターはやや途方に暮れていた。

 

§

 

 とりあえず、司令官に提出するレポートだけは仕上げて、フォスターはストレイカーのオフィスに向かった。

「ああ、大佐。ご苦労。すまないが、ちょっと待ってくれたまえ」

 デスクの向こうのストレイカーは、フォスターの持ってきた書類を受け取ってそれをデスクに置き、直ぐに手元の書類に視線を戻してしまった。
 フォスターは部屋の奥に設置されているドリンクバーに進み、適当な飲み物を持って、ストレイカーの向かい側にある椅子に腰を下ろした。

 俯いて書類を読んでいるストレイカーを、黙って見つめる。
 自分でも不思議なくらい、フォスターはこうして待たされるのが苦では無かった。

 モジュールの中でピーターも口に出して言っていたが、司令部の中でこの部屋に進んで入りたがる人間はそういない。
 ドクタージャクソンですら、ここに呼び出されるのは億劫だと思っているだろう。

 もっとも、彼の場合は他の者と違って、単に〝億劫〟なだけだろうが。
 ピーターや、本部で主任通信士を担当しているキース・フォード辺りに言わせると、フォスターはそれでも大佐という階級もあり、フリーマン同様に司令官と対峙しても気後れや緊張が無いのではないかとの論だが。
 本当の所、自分がここでストレイカーにただ待たされているのが苦ではない理由が、フォスター本人にも判っていなかった。

 俯いて書類を見つめるストレイカーの顔は、やや険しい表情のままほとんど変わらない。
 ただ黙って、紙を繰っては、黙々と書類を読み進めている。
 しばらくストレイカーの様子を眺めて、そういえば自分も最初の頃は、こういう時間を居心地が悪いと感じたものだとフォスターは思った。
 いつから、この時間が苦にならなくなったのだろう?
 慣れた……というだけでは、無い気がする。

「待たせたな。ムーンベースの作業の進行具合はどうなっている?」

 フォスターが自分の考えに集中し始めたところで、ストレイカーは顔を上げた。

「順調です。来週にはシドのアップデートに取り掛かれますから、技術チームのタイムスケジュールを組み直しました」

 先ほどフォスターに渡された書類を取り、ストレイカーは中を確認する。

「判った。それは君に任せよう」

 答えて、ストレイカーは立ち上がった。

「そうだ。君はこれから予定があるかね?」
「なにか手伝いましょうか?」
「いや、そうじゃない。フリーマンが新しい店が出来たと言っていて、これから食事に行くんだ。君も一緒にどうかと思ってな」
「実は、書類仕事を溜めてしまっているんです。次の機会に……」
「そうか、残念だな」

 鞄を持って、扉に向かいかけたストレイカーは、フォスターに振り返って本当に残念そうに微笑んだ。
 一瞬、前言を撤回しようかと思ったが、そのまま部屋を出て行くストレイカーをわざわざ引き止めるのも気が引けて、フォスターはそのままストレイカーを見送った。

 

§

 

「あれぇ? 大佐、まだいらっしゃったんですか?」

 全く進まない書類を前にしているフォスターに、席を立って一服しようとしていたキースが声を掛ける。

「いちゃ、不味かったかい?」
「いえ、そういう意味じゃないんですけど。フリーマン大佐と司令官が、最近出来たレストランに行ったみたいだから、ご一緒したのかなぁって思ってたんですよ」
「誘われたけど、断ったよ。先延ばしにしたまま、書類をずっと滞らせているからね」
「なんだ、そんな書類、僕に回してくれればさっさと片付けてやったのに」

 フォスターの後ろから手を伸ばし、ジョン・グレイは書類をヒョイと取り上げた。

「キミに頼むと、後が高く付くからな」
「そんな事は無いよ。せいぜい、来週の予定を過密にしないでくれる程度で、構わないさ」
「そういえば、そのアップデートの間はシドの機能が止まるんですよね?」

 ほんの少し、不安を滲ませた様子でキースが言った。

「UFOの探知に関してなら、そんなに心配する事もあるまいよ。その為に今、レイク大佐がムーンベースで作業を進めているんだから」
「いっそ、シドをもう一台、設置出来ないもんですかね?」
「そりゃあその方が都合が良いが、そんな提案したら、また司令官がヘンダーソンと大喧嘩になるぞ」
「そういえば、司令官はもう帰ったのか?」

 ジョンの問いに、キースが頷いた。

「フリーマン大佐と、食事に出られましたよ。今日はこのまま帰る……と言うか、こっちに戻らせないでしょう」
「戻らせない?」

 キースの言い回しが気になって、フォスターは訊ねた。

「ああ、キミは今日戻ったから知らないんだな。司令官、ここ数日まともに家に帰ってないのさ。もっとも、司令官の場合、そんな事は恒例行事だけどな」
「なにか、そんな案件あったかな?」
「いや予算の話さ。そろそろ、時期だろう?」
「事件が無いのが幸いですけど、それでも提出書類が遅れ気味ですからね。フリーマン大佐が昨日辺りから、司令官をどうやって家に帰らせようかと思案してましたよ」
「フリーマンのそれは、格好だけさ。ちゃんと前から準備して、策を講じているんだよ。例えば件のレストランだって、散々レイクやエリスを連れて行ってたろ? ありゃ、店の下調べしてるんだよ」
「下調べ? 司令官と食事に行くのにですか?」
「そうさ。司令官はアレでなかなか、口が肥えているからな。食事を理由に本部の外まで誘い出せたはいいが、飯が不味くてそうそうに切り上げられたら、また本部に戻ってきちゃうだろ」
「戻ってきちゃう……って、どうなんですか、その表現……」

 呆れ顔のキースに、ジョンは悪びれもしないで笑っている。

「言葉通りさ。司令官のワーカホリックもかなり重症だ、ありゃフリーマンが居なかったら、司令室に簡易ベッドを置いて家に帰らないだろうな」
「うわあ、さすがにそれは勘弁されたいですよ」
「そうか、キースは基本、本部勤務だけだもんな。そんなコトになったら、24時間、司令官の監視下……」
「やめてくださいよ!」

 想像しただけで、キースは悲鳴を上げた。

「ああ、悪い悪い。あ、なんか通信ランプが点いているぞ、コーヒーは僕が持ってきてやるから、ほらほら…」

 ジョンは、キースを席に追い立てた。

「そうだ、フォスター、忘れるところだった」
「なんだい?」
「ジャクソンが、時間はいつでもいいが、今日中にオフィスに来いってさ」
「はあ? 用件は?」
「僕が知る訳が無い」

 ジョンはそのまま、キースのコーヒーを取りに行ってしまった。
 再び一人になったフォスターは、気を取り直して書類に向かったが、なぜかまたしても奇妙な苛立ちが募っている事に気付いた。
 本当に、さっぱり理由が分からない。
 だがどっちにしろ、一度切れた集中力を取り戻すのは不可能な気がしたので、フォスターは立ち上がってジャクソンのオフィスに向かった。

 

§

 

 フォスターに取って、ジャクソンのオフィスに行くのは、気の重い事だった。
 多分それは、キースやジョンも同じ事だろう。
 ジャクソンのオフィスに行くのと、ストレイカーのオフィスに行くのと、どちらがマシかと聞かれたら、彼らは答えに詰まるだろう。
 もっとも、フォスターにしてみれば、ストレイカーのオフィスに行く方がストレスが無かったが。

 ジャクソンのオフィスは、ストレイカーのオフィスと違って、内装はオフィスというよりは研究室だった。
 だが、そもそも彼がなんの研究をしているのか、ストレイカーですら詳細は知らないだろう。

「ドクター、お呼びですか?」

 フォスターが扉越しに顔を出すと、ジャクソンは振り返った。

「やあ大佐、早かったですね。どうぞ、入ってくつろいでください」

 ジャクソンはフォスターを、愛想良く出迎えた。
 ただ、この人を喰ったようなドクターの愛想は、どんなに出し惜しみをされていなくても、なぜか恐ろしいまでに不気味さしか醸し出さなかった。

「ドクターに診て頂くような事は、ここしばらくしてないと思いますけど?」
「そう、そう。そうなんですよ。事件もトラブルもなくて、ずっとお会いする機会がなくてね」

 ジャクソンは部屋の壁際に取り付けられている書類棚を開き、中からカルテを取り出した。

「大佐はムーンベースの勤務も比較的多くて、こちらから出向いても本部にいらっしゃらない事もあって……」
「それで、用件は?」
「ええ、前回……と言っても、随分前ですが。検査の結果をお知らせしようと思っていたんですが……」
「なにか、問題でも?」
「いいえ」
「なら、無線とか、誰かに言付けるとか……」
「それでは秘守義務が守れません」
「健康だって伝えるだけなら、問題無いでしょう?」
「それだけじゃありませんから」
「では、なんなんです?」
「それをこれから、お話するんです。まぁ、大佐は少し気が短い傾向があるので、仕方ありませんかね……」

 気が短いんじゃなくて、あなたの態度に苛立っているだけだ! と叫び出したいのを、フォスターはグッと我慢した。
 なにせフォスターは、この精神科医に軍法会議で死刑にされかけた過去がある。

 そもそも、最初のSHADOへの入隊試験……と呼んでいいのかどうか分からないが、とにかく最初に会った時から、この人物には好感を抱く事が全く出来なかった。

「これは、コンピューターテストの診断結果です」

 差し出された紙面を見ても、細かい数字がズラズラと並んでいるだけで、よく判らない。

「来週から、なにか新しいプロジェクトが動くとか?」
「シドのコンピューターのアップデートの件じゃないかな?」
「ふむ。それでは、かなり大掛かりで人数も動く?」
「だろうね。作業は24時間体制で、僕とジョン・グレイがそれぞれチームを率いて交互に作業する。それでも最短で2日は掛かる予定だ」
「直接関係が有るのは、グレイ大佐だけですか?」
「そうなる予定だが…、なぜ?」
「いえ、グレイ大佐なら問題はありません」
「それは、どういう意味だ?」
「以前にブラッドレー大尉とエリス中尉の現場の判断力を検査したのをきっかけに、その人物の能力だけでなく、現場でのチームワークというものに非常に興味を持ちまして。過去のデータから、最近のデータまでを細かくコンピューターに入力してみたんです。それぞれの性格や行動パターンなど、多岐に渡るデータを……」
「ドクターの研究論文を、僕に全部聞かせてくださらなくても結構です」
「……そうですね。大佐が気が短い事をつい失念していました」

 だから、気が短い訳じゃない! と、フォスターは心の中で叫んだ。

「結論として、その任務に従事する場合、1人で任務についた方が能力を発揮出来る者、多人数でチームを組んだ方が効率が上がる者、またそのチームもメンバーの顔ぶれによっては能力以上の成果を上げられる者がある事も判ってきました」
「そんな事は、コンピューターで調べなくても、普通に接していれば判るだろう……」
「確かに察しを付ける事は可能ですが、数値化する事によって、よりハッキリと、察する能力の無い者にも解りやすくなるのですよ」

 ジャクソンが、ニッコリと笑った。

「それで、僕とグレイ大佐の場合、問題は無い……ってのは判ったけれど。ドクターの言い方だと、まるで他の者が任務についた方が良さそうに聞こえるが?」
「いいえ、その逆です」
「逆?」
「はい、むしろフォスター大佐とグレイ大佐はベストマッチしてますね。私は研究者です。大佐のように実務に当たっている訳ではありませんから、常に選択肢の可能性を追求します。今回の場合、技術的にも体力的にもフォスター大佐とグレイ大佐に命令が出るのが順当ですが、前回のコリンズの事件のように某かのトラブルが起こった場合、エリス中尉、レイク大佐、ストレイカー司令官などが代わりに作業に従事する可能性があります」
「そういえば、コリンズの事件の時はドクターも死にかけたんでしたっけ?」
「そうです。SHADOの敵は宇宙人、こちらの予想もつかない手段に出る可能性が常につきまといます。例えば今回のシドのコンピューターのアップデートなどという重大事項が、もしも宇宙人に知れてしまったら、格好の標的になります」
「ドクターも過去から学ぶ事があるってコトですか?」
「研究というものは、常に過去から学んで未来に生みだすものです。ですので今回、作戦に参加する予定のメンバーを特に重点的にマッチングテストをしてみたのです」
「それで結果が、僕とグレイがベストマッチだって、僕に言いたかったんですか?」
「いいえ。ベストマッチなのは事実ですし、それは私が口出しをする事ではありません」
「では、何の話なんですか?」
「可能性の話です。もし今回、グレイ大佐になにかトラブルがあって、作戦に参加するのが不可能になった場合……の、話ですね」
「グレイの身に危険が迫っているんですか?」
「いいえ。私は未来予知をしている訳ではありませんから、そんな事が判る訳が無いでしょう」
「じゃあ、作戦にトラブルが迫っていると?」
「違います。もしグレイ大佐の身に何か事故が起こって、作戦に参加出来なくなった場合……の話だと言ってるんです」
「もしも……ってコトですか?」
「そうです」

 フォスターは拳を強く握りしめる事で、ようやく苛立ちを顔に出さずに済んだ。

「……もしも、グレイが作戦に参加が出来なくなった場合、事態はどうなるんでしょう?」
「事態がどうなるか……ではなくて。グレイ大佐が降板した場合、第一候補は誰になりますか?」

 ジャクソンの問いに、フォスターはようやく話の論点が見えた気がした。

「もしかして、僕と愛称の悪い誰かが任務に付いたら、効率が悪くなるとかいう話なんですか?」
「先ほどから、その話をしてますが……」

 再び叫び出したい苛立ちを覚えたが、しかしジョン・グレイが本当に参加出来なくなった場合のメンバーを考えて、フォスターは少し冷静になった。

「レイクと僕の話ですか?」
「確かに、レイク大佐もかなり数字の上では不適当だとは思いますが、大佐と相性が悪いのは司令官です」
「僕と司令官が?」
「相性が悪いと言う表現は、あまり適切では無いですね」
「僕と司令官は、以前から度々一緒に任務に付いているが、問題なんてなかったぞ」
「そうでしょう」
「じゃあ、なんだって今回は特にそんな話に?」
「今回が特に……ではなく、今回初めて数値化したところ、そういう結論に達したのです」
「じゃあ、誰が司令官と任務に付けば、効率が上がると言うんだ?」
「落ち着いてください、フォスター大佐」
「僕は先刻から酷く冷静に話をしていますよ、ドクター!」
「ここにお見えになった時に比べて、声が大きくなってきていますし、血圧も上がっていらっしゃるようだ。まぁ、仕方がありませんね」
「僕の気が短いからか?」
「いいえ、話題が司令官の事になったからです」

 ジャクソンの返事に、フォスターは自分でも訳がわからないが酷く狼狽えた。

「なんだって?」
「実を言うと、この数値が大佐の素の状態の数値なのか、以前に宇宙人に洗脳を受けた時の影響が残っているのか、データが足りないので私にはハッキリ断定する事が出来ないのですが…」
「僕はもう、司令官を殺そうなんて微塵も考えていませんよ、ドクター!」
「ええ、それは司令官が証明されましたから、信じていますよ。けれど、司令官を殺そうとする程の強烈な刷り込みがされてしまった事実は、変わりません」
「……どういう意味だ?」
「ヒヨコが卵から孵った時に、最初に見たものを親だと思い込む現象をご存知でしょう? 大佐はそれよりも強烈な刷り込みを宇宙人にされてしまっている。……つまり、大佐に取っての司令官は、家族や恋人以上の存在になっていてもおかしくないんです」
「ならいっそ、SHADOの任務遂行には、都合が良いんじゃないのか?」
「それが単なる忠誠心なら、問題はありません。ですが、大佐は件の洗脳後、スカイダイバーの海底座礁事件や、大佐の裏切り疑惑など、何度か司令官に命を助けられるような事象が重なった事により、忠誠心よりも更に強い、一種の恋愛感情に近いものを抱いているようだとコンピューターは結論付けました。そうした感情は、向けられた相手の反応如何によっては、ストーカー行為のような歪んだ方向に進む危険性があります。以上の理由により、私は大佐と司令官が一緒の任務に付く事を推奨しかねるという結論に達しました」
「それはつまり、僕は司令官に惚れてるって、コンピューターがそう言ったって言ってるのか?」
「そうです。因みにエリス中尉とブラッドレー大尉が相思相愛である事は、お二方が自覚される前にコンピュータが結論として出してきました。とはいえ、私も人間ですから、診断を誤る事もありますし、コンピュータの結論もデータ入力時に欠損があれば間違う事もあるでしょう。ですからこれは、あくまでアドバイスの域を出ません。そもそも、このマッチング自体がまだテスト段階ですからね」

 ジャクソンは再び、悪魔のような笑みを満面に浮かべた。

 

§

 

 不機嫌な顔で、フォスターはジャクソンのオフィスを後にした。
 コンピューターに自分の脳内を覗きこまれたような感じが、実に不愉快なのだ。
 そもそも、コンピューターだけでなく、ジャクソンにまで見られたようで、それが更に不愉快だった。

「僕が司令官になんだって?」

 廊下には幸い誰も居なかったが、例え居たとしても今のフォスターなら声に出していただろう。
 けれど、そこでふと司令官の顔を思い浮かべたところで、フォスターは立ち止まった。

 ジャクソンのオフィスと、ストレイカーのオフィス。

 どちらかに呼び出されるとしたら、どちらの方がマシか? という問いに、自分は即答でストレイカーを選ぶ。
 だが、それが〝マシ〟なのかと言えば、そうじゃない事に気付いたからだ。
 マシではない。
 ストレイカーのオフィスに行って、手が空かないストレイカーにただそこで待たされている間、彼の佇まいを眺めている。
 それが苦ではないと思っていたが、むしろ楽しんでいた事に気付いてしまった。

「冗談じゃない!」

 フォスターは思わず、頭を左右に振った。
 宇宙人の洗脳だの、コンピューターの診断だの、それでは自分の意思が何も無いと言われているようなものだ。
 そんな事など、あってたまるものか。
 少なくとも宇宙人からの洗脳からは、もうとうの昔に解放されている筈だ。

 それはストレイカーが命を賭して証明してくれた……。

 カアッと、頭に血が上る。
 そこでまた、ストレイカーの事を考えるのは、どうかしているとしか言えない。
 むしろ、ジャクソンにわざわざ指摘された所為で、ストレイカーの事を無闇に意識し始めてしまったような気にすらなってきた。
 むしろ、ジャクソンの方こそ誰かに意識を操作されていて、自分を混乱させる為にあんなデータをでっち上げたのではないかとすら、疑いたくなる。

「大佐、どうかしました?」

 不意に声を掛けられて、フォスターは無闇にビックリして振り返った。

「エリス中尉! なんでここに?」
「定期検診で、ドクターシュローダーの所に出頭していたんです。大佐は?」
「僕も、似たようなモンだよ。ジャクソンの所から戻る途中さ」
「ああ、ドクタージャクソンのオフィスから……」

 エリスはそれ以上言わなかったが、顔にはあからさまに「それじゃあ、廊下でいきなり叫びだしてもおかしくありませんわね」と書いてあった。

「そうだ、ちょっと聞いてもいいかな……その、とても個人的なコトを」
「なんでしょう? お答え出来る範囲でなら、大丈夫ですよ」
「ブラッドレーとのコトなんだけど」
「ええ、大尉とは良いお付き合いをしています」
「キミ達はそれを、コンピューターに指摘されたって聞いたんだけど」
「そうですよ」
「それで付き合い始めた時に、違和感は無かったのかい?」
「マークとも話したんですけど、私達はコンピューターにお互いに対する気持ちを指摘されるまで、その事に全く気付いていなかったんです。確かに、仕事をする上で、マークはとても信頼出来る士官だと思ってはいました。リーダーシップもあり、頼りになる人だと」
「それを急に、恋愛対象だと言われて、変には思わなかった?」
「コンピューターに指摘された後、マークと冗談で食事に行ったんです。話題はもっぱら、コンピューターがそうした判断をするのはどう思うか? でしたけど。私達の意見はほぼ一致しました。気が合うと言った方が、自然ですわね。〝そんな風になにもかもをコンピューターの判断に委ねてしまうのは、やはり危険を伴うと感じる〟という結論です」
「でも、キミ達はまだ付き合っているんだろう? あの事件からもう、一年…? それ以上経っているよね?」
「ええ、そうです。でも、コンピューターが出してきた結論が、なんでも悪いって訳じゃありませんし。現に私達の任務の大半は、指示や結論をコンピューターに委ねる場合も多い訳ですから。結局、コンピューターは道具に過ぎません。お茶を飲みに行って、相手の反応を確かめるのと同じ事なんじゃないでしょうか?」
「なるほどね。……もっとも、キミ達の場合はお互いに憎からず想い合っていたワケだから、結果が上手くいくのは当然の成り行きってコトにもなるのか……」
「ドクタージャクソンに、なにか言われたのですか?」
「あ〜、いや。ドクターに……と言うか、コンピューターに……。僕は司令官と仕事をするのが、向かない……ってね」
「そんな事はありませんよ」
「ハッキリ断定するね?」
「コンピューターの結論は、あくまで一つの判断材料に過ぎません。時間的余裕があるなら、検証をするべきだと私は考えています。マークとの事は冗談めかして食事に行った事が検証ですし、作戦行動中に一番信頼しているのは自分自身の判断じゃありません?」
「なるほど、確かにそうだ」

 ふむと頷いて、それからフォスターはエリスのアドバイスを実行に移してみたくなった。

「中尉、本部の傍に新しくレストランが出来たってニーナとヴァージニアが話していたんだけど、キミはその店がどこにあるか知ってるかい?」
「知ってますよ。今日はこれから、マークとそこで待ち合わせをしていますから、店までならご一緒出来ますけど」
「ああ、是非よろしく頼みたいな」

 フォスターの申し出に、エリスはニッコリ笑った。

 

§

 

 確かにそのレストランは、SHADO本部……つまり、ハリントン=ストレイカー映画スタジオの近所にあった。
 と言うか、中に入るとそもそも客層が映画スタジオの関係者ばかりだった。
 もっともレストランのオーナーは、それを見越してこの場所に店舗をオープンさせたのだろう。

 映画スタジオとして、広大なオープンセットや映画製作の為に必要な諸々の建物を兼ね備える為に、この辺り一帯はほどんどが映画スタジオの所有になっている。
 地下にあるSHADOの本部が、そもそも大掛かりな機材や装置が必要なので、映画スタジオという隠れ蓑にもそれなりの規模が要求されたからだ。
 スタジオという仕事柄、人の出入りも激しいし、仕事に携わる人間の数も膨大になる。
 SHADOのメンバーはスタジオの仕事も兼任していたが、スタジオの関係者が必ずしもSHADOのメンバーな訳では無いから、人数は瑣末な企業を簡単に上回っただろう。

 その近所であれば、よほどの問題が無い限り、飲食店の経営がつまづく訳が無い。
 店内は前述の通りスタジオの関係者ばかりだったが、それだけで充分に大盛況だった。

「おおい、フォスター!」

 店の奥から立ち上がって手を降っているのは、フリーマンだ。

「なんだ、キミも隅に置けないな! ブラッドレーの目を掠めて、エリス中尉を口説くつもりか?」
「まさか!」
「私はマークと待ち合わせなんですよ。こんにちわ、司令官」
「やあ、エリス」

 ストレイカーに挨拶を済ませると、エリスはブラッドレーと予約を入れた席に行ってしまった。

「キミは?」
「ヴァージニアがあんまり褒めるんで、様子を見に来ただけなんですが。これじゃあ、席を確保出来るかな?」
「それなら、ここに一つ増やして貰えばいい」

 フリーマンはボーイを呼ぶと、直ぐに席を用意させた。

「書類仕事が溜まっていると言っていたが、終わったのかな?」

 こころなし引っかかるような言い方をされたような気がしたが、ストレイカーは不愉快な顔をしていない。

「いえ、あんまり進んでいません。あの後ジャクソンに呼ばれたので…」
「ジャクソンに? なんか問題が?」

 フリーマンが訊ねた。

「コンピューター診断の結果で、僕が作業に従事るのにジョン・グレイが最適だって話でした」
「なんでその話を、ジャクソンが?」
「なんでも、エリスとブラッドレーの適性検査をした時から、コンピューターで相性診断するのに凝ってるそうですよ」
「なんか、キミの話を聞いていると、彼の研究は星占いと紙一重だな」
「僕に言わせれば、同じですよ」

 フォスターがうんざりしたように言うと、聞いていたフリーマンはいかにもおかしいと言った様子で笑った。

「なんだ、アレック! 今日はご婦人は連れてないのか?!」

 店の入口の方からやってきた誰かが、こちらに向かって来る。

「やあ、これは監督! 撮影は順調ですかな?」

 フリーマンは立ち上がると、ちょっとだけ二人に振り返ってからテーブルを離れた。

「あれは……?」

 フォスターには、見慣れぬ顔の男だった。

「今撮ってるコメディ物の監督だ。若いが、なかなか面白いシナリオを書く」

 顔を俯けたまま、ストレイカーは答えた。

「司令官は、シナリオをご覧になったんですか?」
「専務だよ」
「はい?」
「一般人も多いんだ。ここでは専務と呼びたまえ」

 ストレイカーは、チラッと上目遣いにフォスターを見る。

「あ、はい。申し訳ありません」
「もちろん、読んだ。一応映画スタジオだ、そっちの仕事をしない訳にはいかないだろう。もっとも、大したヒットも飛ばした事も無い映画会社だから、ああいった外部の人間からシナリオが送られてくる事はそう滅多に無いがね」
「でも、面白いんでしょう?」
「ああ。彼はきっと、大ヒットを飛ばせる才能があると思うね。もっとも、それを制作するのはウチの会社では無いだろうが」
「注目を集めないように、わざと駄作ばっかり撮ってますからね」
「フォスター」

 ストレイカーは「口を慎め」と言わんばかりの顔で、フォスターを睨みつける。

「すみません。映画の仕事がつまらないワケじゃないんですが、どうも気持ちが遊び半分で…」
「これ以上この話題を続けていると、ますますボロが出そうだな」

 かなり呆れた様子でストレイカーは溜息を吐いたが、姿勢は相変わらずやや顔を俯けたままだった。

「あの司……専務。どうして先刻からずっと俯いているんですか?」
「この店はスタジオの関係者の中でも、少し金回りの良い客が多い。監督だの主役レベルの役者だのがやってきては、先刻から私を見つけるとやたらと挨拶に来るんだ。オチオチ食事などしていられない」
「それなら、店を出ませんか?」
「それは実に、名案だよ」

 フォスターはフロアに居たボーイをつかまえると、フリーマンに二人共帰った旨を後で伝えるように言い含めて店を出た。

 

§

 

 通りには、既に駐車場から車を回してきたストレイカーが待っていた。

「君の予定は?」
「僕は、食べずに出てきてしまったので、これから食事に行きたいですね。司令官のご予定は?」
「本部を出た時は戻るつもりだったんだが……」
「いけませんね。どうせ、フリーマン大佐にもダメだと言われたんじゃないんですか?」
「その通りだが、なぜ知ってるんだ?」
「もう数日帰ってらっしゃない事は、僕の耳にも届いています」
「一体、君達はどうなっているんだ? 仕事をしないで、上司の行動でも探っているのかね?」
「一緒に仕事をしていれば、知りたくなくても見えるんじゃないんですか?」

 フォスターの返事に、ストレイカーはやや不機嫌な顔になった。

「食事はどこで取るのかね?」
「そうですね。しいて希望を上げるなら、司令官の料理を食べてみたいですね」
「なんだって?」
「フリーマン大佐に伺ったんです。司令官の料理は、三ッ星レストランのシェフ顔負けだって」
「本当に、君達は仕事をしてないんじゃないのか?」
「まさか! 今のは冗談ですよ、司令官は既に食事を済ませていらっしゃるんでしょう? アパートの近くで降ろしてもらえたら、後は一人で勝手に……っ!」

 ストレイカーは、いきなり車を出した。

「なんですか?」
「先刻も言った通り、あの店では落ち着いて食事が出来なかったんだ。君にはこれから、私の食事に付き合ってもらう」

 こちらをチラッと見やったストレイカーは、なんとも意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

§

 

 本当に、ストレイカーは自宅に戻って、フォスターと食事をした。
 冗談で言ったつもりのフォスターの方が、むしろ気が引けて萎縮してしまった。

「ところで、一つ訊ねたいんだが…」

 食事を済ませ、ストレイカーは食後のコーヒーを煎れ、カップをフォスターに手渡してきた。

「なんでしょう?」
「レストランで君は、ジャクソンのオフィスに呼ばれたと言っていたが」

 続いてストレイカーは、自分のカップにコーヒーを注ぎ入れると、ソファに身体を沈めた。

「はい、その通りです。シドのアップデートに関する作業で、僕と仕事をするのはジョンが最適だと言われました」
「本当に、ジャクソンはそんな話をする為に、君を呼び出したのか?」
「なぜですか?」
「ジャクソンは、自分の仕事をわきまえている。内部調査も精神鑑定も彼一流のやり方で、実に……狡猾にやり遂げる」
「それは、知ってます」
「なら、ジャクソンが無駄な口出しをしない男だと言う事も、解っているんじゃないかな?」
「ジョンとのマッチングが、無駄な口出しだと?」
「ジョン・グレイ大佐と君が任務に付くのは、順当だ。それに格別問題があったとしたら、ジャクソンはまず私に進言しに来るだろう。君には、私から命令として言わせた方が簡単だからな」
「では、僕が嘘を吐いていると?」
「どうかな? 何か話を摩り替えたんじゃないかと、私は睨んでいるんだが」
「僕が? なんのために?」
「ジャクソンが君に話したかったのは、作戦や任務の内容についての云々ではなく、君個人の何か……プライベートな行動や感情に関する話だったんじゃないのかね?」

 まるで、ドクタージャクソンとの会話の全てを知られていて、ストレイカーは自分を尋問する為に自宅に招いたのだろうか? とフォスターは思った。

「………………」
「フォスター、私は何も、君のプライベートを暴き立てようとしている訳じゃ無い。ただ、君はジャクソンと酷く相性が悪いから、何かまた余分な事をジャクソンに言われて気落ちしたりしてないかと、訊ねているだけだ」

 膝に肘を当てるような、やや前屈みの姿勢になって、ストレイカーはフォスターの顔を見る。
 その表情からは、フォスターを気遣うストレイカーの心遣いが見て取れた。

 フォスターは、後悔の念に囚われる。

 考えてみればストレイカーが、わざわざフォスターを尋問する必要など無いのだ。
 確かにジャクソンは〝秘守義務〟などと言ってはいたが、SHADOは軍隊形式の組織だ。
 最高司令官の命令は絶対であったし、ストレイカーがジャクソンに研究内容について問えば、聞き出す事はいくらでも可能だろう。

 要するに、ストレイカーはただフォスターを心配してくれていただけなのだ。
 そう思い至って、フォスターは一気に肩の力が抜けた。

「……ジャクソンは……、もしジョンが、なにかの要因で今度の任務に付けないような事態になった場合、司令官と仕事をするのは避けたほうが良いと言う為に、僕を呼び出したのです」
「私と? なぜ?」
「それは、僕が宇宙人に司令官暗殺の洗脳を受けたので………」

 そこまで言ったところで、フォスターは言葉に詰まってしまった。
 いくらコンピューターが勝手に決め付けたような結論だといえ、今ここで、本人に向かって、自分がストレイカーに懸想している……なんて、言える訳が無い。

「君の洗脳なら、もう完全に大丈夫だ。今更そんな話を持ちだして来たのかね?」
「いえ、それはキッカケに過ぎないんです」
「なんのきっかけかね?」
「えーと………」

 ストレイカーはますます心配そうな顔で、フォスターを見つめている。
 その顔を見ていたら、フォスターはだんだん訳が解らなくなってきてしまった。

「僕は司令官に恋をしているって……」
「なんだって?」
「ああ、いや、ジャクソンが司令官にですね……」
「ジャクソンが私に?」
「いや、そうじゃなくて、僕は……いや、僕が……」
「フォスター大佐、落ち着きたまえ!」

 ストレイカーは立ち上がると、フォスターの肩に手を置いた。

「あ……えーと」

 フォスターは持っていたカップから、コーヒーをガブガブ飲んだ。

「一体、どうしたんだ? ジャクソンから、そんなに狼狽えるような診断結果でも貰ったのか?」

 覗き込んでくるストレイカーの顔を直視出来なくて、フォスターは思わず俯いた。
 なんだかもう、本当に訳が解らない。
 コンピューターの診断結果を気にしすぎているのか、それとも診断結果がエリス達の時と同様に正しいのか?


「フォスター?」
「コンピューターが……僕は司令官に恋をしているって診断を……」

 半ばやけくそになって、フォスターは口を開いた。

「なんだ、そんな事か」

 ようやくの思いで口にした内容を、ストレイカーがあまりに軽く受け流したので、フォスターはビックリして顔を上げた。

「そんなコト?」
「どうした?」
「そんなコト……って、そんな軽く言えるようなコトなんですか?」

 たかがコンピューターの診断結果だと思っていた筈なのに、自分はストレイカーの返答に不満を抱いて苛立っている事に、フォスターは気付いていなかった。

「君が私に好意的な事は、コンピューターに診断などされなくても知っている」
「はあ? じゃあ、司令官は僕が司令官に下心を持っているって、そう言いたいんですか?」
「なんだ、君は気付いてなかったのか?」
「気付いて……って、気付くもなにも、僕は司令官を尊敬はしてますが、下心だの恋だのと言われれる所以はありませんよ!」

 思わず立ち上がって、フォスターはなんだか言い訳めいた言葉を並べ立てる。

「フォスター!」

 ストレイカーは正面に立って、落ち着き払った顔でフォスターをジッと見ていた。

「ジャクソンがコンピューターの診断結果を君に伝えた。君はその診断が気に入らない。そういう事かね?」
「え……っと、……たぶん、そうです」
「なぜ、気に入らない?」
「なぜって……。だって僕が司令官に下心を持っているなんて……」
「論点はそこじゃないだろう?」
「はい?」
「診断結果が間違っているなら、それだけの事だろう? 君がその診断結果に拘って、狼狽えているのは、君がほんの少しでもそういった感情を抱いていて、それを他人に指摘されたからじゃないのかね?」
「そんなコトは……!」

 言い返そうとして、ストレイカーの顔を正面から見た時、フォスターはなんだか頭に血が登ってくるような錯覚を覚える。

「確かに、ジャクソンの助言は間違っていないようだな、大佐。今の君の状態では、私と任務に付くのは無理だろう」

 間近に立っているストレイカーの顔を、フォスターはマジマジと見つめた。
 ジャクソンに言われた事や、ムーンベースから戻ってきた時からずっと引っかかっていた苛立ちや、ストレイカーに指摘された事が、頭の中でグルグル回っている。
 整いすぎているストレイカーの顔は、時に少女のようにすら見える。
 透明度の高いガラスで作られたような、青い瞳。
 司令官のオフィスに行くのが、ジャクソンのオフィスに行くのに比べ、全くストレスを感じない理由。

「でも……僕がもし、司令官にそういった感情を抱いているとして、……こんな感情は持つべきじゃない」
「なぜ?」
「ジャクソンが言ってました。司令官に対する僕の執着は、場合によってはストーカー行為やそれ以上の歪んだ方向に進む危険性があると……」
「それは、私が君に対して無碍な態度を取った場合だろう?」
「こんな一方的な感情、迷惑じゃないですか」
「それを決めるのは、君では無く私では?」
「だって、僕にも分からないんですよ! いきなりジャクソンからそんな話をされて! 確かに僕は司令官の事が酷く気になっていますが、あんな風にコンピューターに指摘されたりするのは酷く不愉快だし、そもそもその原因が宇宙人に洗脳されたからだとか言われて! それじゃあなんですか? 僕にはホントはもう僕の意思なんてもんはなくなってて、誰かにイイように操作されてるんですか?」
「ポール!」

 キッパリとした大きな声で名前を呼ばれ、フォスターはハッとなった。

「君が何でそんなに混乱しているのか、解った」

 不意にストレイカーはフォスターの肩に両腕を回し、グイっとフォスターの顔を引き寄せると、有無をいわさずに唇を重ねあわせた。
 フォスターは最初、何が起こったのか、全く分からなかった。
 そして、数秒後に事態を理解した瞬間に、今度はパニックになった。

 しかしストレイカーはかなりガッチリとフォスターの頭を固定していて、離れる事は出来ない。
 もし本当にストレイカーから身体を離そうとしたら、かなり本気で彼を突き飛ばさない限り不可能だろう。
 ストレイカーは酷く緩慢な動きで唇を開き、フォスターの唇を舐めた。
 それと同じように緩慢な動きで、ストレイカーはゆっくり瞬きをする。
 伏せた瞼を縁取る睫毛と、その陰から時折覗き見える青い瞳。
 ストレイカーが腕から力を抜いて、フォスターの唇を解放するまでに掛かった時間は、ほんの数秒だった。

「気分は?」

 呆然としているフォスターに、ストレイカーは腕をフォスターの肩に回したまま訊ねた。

「あの……今のは……???」
「キスだ。知らんのか?」
「いえ、行為の名称は知ってます……ケド……」
「では、質問に答えたまえ。気分は?」
「あ……判りません」
「判らない訳が無いだろう。君は今、私とキスをして、気分はどうだと訊ねられているんだ。愉快とか不快とか、二度とごめんとかもう一回とか、何かあるだろう?」
「もう一回……。あの! そうじゃなくて、なんでこういう展開になっているのか、判らないって言ったんです!」
「君はジャクソンに、コンピューターの診断で任務に携わる者達の相性を調べると言われた時に、どう答えた?」
「いちいちコンピューターなどで調べなくても、現場で一緒に仕事をしていれば判る……と」
「私も、君と同意見だ。コンピューターに言われなくても、君が私に好意を抱いている事は、見れば判る」
「それと、今のキスと、どう関係が?」
「コンピューターがとか、ジャクソンがとか、宇宙人がとか、そんな事は関係無い。君は私に好意を持っていて、私も君に好意を持っている。私は君にキスをして、君はそれを不愉快には感じていない。その事実の他に、なにか御託が必要か?」

 フォスターを射抜くように見つめる青い瞳は、明確な現実と真実のみを語る。
 全く、ストレイカーの言う通りだった。
 その感情を表に出す事がどうしても出来ずにいたところに、ジャクソンの話を聞かされて、簡単にいえば動転していたのだ。

「申し訳ありません……」
「君は本当に、時々猛烈に神経が恐竜並みになる」
「それは、あんまりじゃないですか」
「言っておくが、君が私に好意を持っていると、フリーマンに散々せっつかれたんだぞ」
「はあ? なんでそこでフリーマン大佐が?」
「君の様子を見ていたら、心配になったんだろう。まるで私が、鬼か冷血漢みたいな事まで言われたぞ。フリーマンはてっきり、私は君に口説かれたのに、答えを保留にして君をからかってると思っていたらしい」
「でも、なんでフリーマン大佐がそんなコト知ってるんです?」
「君も言ったじゃないか。そんな事はちゃんとその人間を見ていれば判ると。きっと君を少しでもちゃんと見ている者は、みんな知ってるだろうな。それぐらい、君の様子はあからさまだったし」
「え……、えええっ!?」

 そんな事を言われては、明日から一体どんな顔をして本部に行ったらいいのか?
 思わずへたり込むフォスターを、ストレイカーはやっぱりちょっと意地の悪い笑みを浮かべて見ているだけだった。

 

終わり

Notes:

当方の作品を読んでくださって、ありがとうございます。
楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。
コメントは翻訳ツールを使って必ず拝読させていただきますので、ぜひお気軽にお寄せください。

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