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10:DarkPhoenix

Chapter 8: Child of Light and Darkness!

Summary:

アティランではメデューサがテリジェン・ボム投下を正当化し、マキシマスは地球との衝突を危惧する。だが研究室で彼はレッドスカルに襲撃され、“マキシマスではない者”が目を覚ます。地球ではフェニックスの炎が都市を焼き、選択は最悪へと傾く。

Chapter Text

 ニューヨークの真夜中は、街灯と看板の光に濁った水面のように揺れていた。
 グースの見た目は家猫そのものだが正体は違う。グースはフラーケンと呼ばれる宇宙生物だ。体内に空間を内包している。とはいえ性根は猫だ。飼い主に忠誠心なんてものはない。そもそもキャロルを飼い主とも思ってない。やりたいことをやって、やりたくないことにはしない。威嚇するか、逃げる。ドロドロとした油まみれになんてなりたくない。
 アダムのいる家に帰って日向ぼっこをしながら、ぐっすり寝たい。
「にゃああああっーー!」
 もう帰る。そう決めた。
 グースは油まみれになりつつ地球に帰ろうとする。振り返る気配はない。
「ダメ!待って!」
 キャロルはその後を追う。呼吸は浅く、視界の端には銀色のデータが溶け込むように流れ込んでくる。ファランクスの侵食が加速していた。それでも目を離せない。
「待ちなさい、グース……!」
 待つわけない。
 猫は人の言うことをきかない。
 叫び声は夜に溶け返事はない。必死で追い縋った。
 猫は地理を知らない。上から見てひときわ明るい場所に行こうとする。ニューヨークに行こうとする。
 そのとき、空が赤々と染まった。
 夜明けには早すぎる。雲を突き破って現れたのは、燃える翼を広げた鳥影。街のビル群を、巨大な炎の羽ばたきが一瞬にして赤く照らし出す。熱ではなく圧力、星の鼓動のような力が空を震わせる。
 フェニックス。
 不死なる鳥が、落ちてくる星の英雄と猫を待ち構えていた。
 ビルの屋上に立つ者たちが、闇を裂いて声を放った。
「ジーン! 聞こえる? あたしよ!」
「帰ってきて、ジーン!」
 サイクロップス、ストーム、仲間たち。X-Menの呼びかけが夜を震わせる。
フェニックスの炎は応えない。だが一瞬、その巨大な影が揺らいだ
 夜の摩天楼を、燃える鳥影が横切った。瞬間、ビルの屋上から火柱が噴き上がり、ガラスが弾け飛ぶ。炎は風に煽られ、通りを赤く染め、逃げ惑う群衆の影を長く引き伸ばした。爆ぜる電線、落ちる看板。フェニックスの翼がひと振りされるたび、街は火の海へと変貌していく。
「X-Men!」
 エグゼビアが叫んだ。
 ジーンを破壊者にしない。それが彼の決断だった。そのためにしてきたことがエグゼビアにはある。それがなんなのかは、相当あとになるまで生徒たちが知ることはないが、チャールズ・エグゼビアはつねに生徒たちミュータントたちが健やかに暮らしてくれることを望んでいた。
 死ぬ最後のときまで、それを望んでいた。
 彼は本当に利他的な人物なのだ。だから今もジーンを破壊者にしないためにX-Menを派遣しているのだ。
 燃えさかる街に、突如として冷たい風が吹き込み、稲妻が夜空を裂いた。ストームは両腕を広げ、雲を操る。滝のような雨が降り注ぎ、炎はじゅうじゅうと音を立てて鎮まっていった。
 X-Menたちは倒れた人々を抱き起こし、安全な場所へ導こうとする。だが群衆は怯えた目で後ずさる。「ミュータントだ」「火を呼んだやつらか」感謝よりも恐怖が先に立つ。
 ストームも微笑もうとするが、雨に濡れた顔はわずかに揺らぎ、心に冷たい痛みを刻んでいた。
「これがアメリカか」
 そういう気持ちが彼女のなかに湧き上がるのも無理からぬことだった。
 ニューヨークの街は火に包まれていた。摩天楼の窓が爆ぜ、炎が通りを飲み込む。
ストームは雨を降らせ、コロッサスは瓦礫を持ち上げ、ナイトクローラーは泣き叫ぶ子供を抱えて瞬間移動させる。必死の救助にもかかわらず、市民の目は恐怖に曇っていた。
「やっぱり奴らが火を呼んだんだ!」
「アベンジャーズはどこだ、助けてくれ!」
 叫びが群衆に広がり、助け出された人々さえも彼らを避けるように後ずさる。
 夜空には巨大な鳥影が浮かぶ。
 ジーンの姿を包み込んだフェニックスは、燃える翼をさらに広げた。ひと振りごとに炎が都市を呑み込み、赤く輝く羽が空を覆う。X-Menたちは声を枯らしながら呼びかけるが、その炎は応えを拒むかのように強まっていく。
 そんなこともグースには関係ない。
低く唸る鳴き声は、だれの耳にも届かない。
 油にまみれ、煤で黒く汚れたグースはイライラしていた。長く生きてきたが、こんなにムカつくことはいままでなかった。目立つ炎に向かって突進する。瞳を光らせ、迷いもなく炎の中心へと突進していく。
 街もX-Menも関係ない。
 家に帰って寝る。
 市民さえ関係ない。邪魔をするヤツは食べつくすほどムカついていた。
 そんなネコのイライラをキャロルは痛いほどわかっていた。
 ネガボムをなんとか食い止めてから、今まで、このわずらわしい油の支配を免れてこられたのは、すべてグースのおかげだ。グースがキャロルを守ってくれたからだ。だが、それにも飽きてしまったのだろう。
 家の灯りが見えたのなら帰りたいと思うのは当然だ。キャロルだって帰って寝たい。モニカに愚痴りたい。
 だがあの油を地球に落とすわけにはいかない。
 成層圏の高みを滑るように、キャロルは地上へ落ちていくグースの残像を追った。
次の瞬間、背筋を凍らせるほどの異質な波動が宇宙から降り注ぐ。
 地球には火の鳥がいるというのに、月から、巨大な青い光をまとった機械が落ちてきていた。それは圧縮されたエネルギーの塊に見えた。
 キャロルの脳裏に蘇ったのはネガボムの記憶だった。かつてクリー帝国を震撼させ、多くの命を灰に変えようとした破滅兵器。
 地球で再現させるわけにはいかない。呼吸を荒げながら加速し、キャロルは宇宙へと駆け上がる。インヒューマンの爆弾、テリジェンボムを止める。
「くぉのぉぉぉ!」
 キャロルにとって幸運だったのは、爆弾の落下エネルギーを全身で受け止めた瞬間、身体を覆っていた油分子が急激な高温で気化したことだ。揮発性成分は蒸散し、残滓は光子流に分解されて大気に散る。皮膚表面は焼けることなく、彼女のエネルギー吸収能力が熱を光へと転換していた。
「ぬおぉぉぉぉ!」
 必死で食い止めた。
 絶対に負けるはずがない。彼女の中に刻まれた光の残響だ。声なき共鳴が胸を打ち、キャロルは自らの両手を広げ、エネルギーを凝縮させた。光と光が共鳴し、爆弾は軌道を逸れ、火花を散らして宇宙のかなたへと弾き飛ばされる。
「よっしゃあぁぁぁ!」
 だが安堵する暇はなかった。視界の端を掠めた第2の閃光がニューヨークを目指していた。
 時間はない。
 キャロルは咆哮し、その軌道を追う。燃え尽きそうな身体をさらに駆り立て、彼女は闇を裂いて飛ぶ。夜の星々を突き抜け、次なる破滅を阻止するために。
 夜空を裂いて落ちてくる光の塊。
 第2の爆弾は赤熱しニューヨークを狙う矢のように突き進んでいた。地上から見上げる人々は声を失い、X-Menは、ただ絶望の色を浮かべるしかなかった。
 その中心に、燃える鳥影が立ちはだかる。
 フェニックスの炎をまとったジーン・グレイ。彼女はこのためにニューヨークに帰ってきた。
 両の翼を大きく広げて爆弾を迎え撃つ。赤く燃え上がる羽ばたきが夜空を染め、爆弾の周囲に纏わりつく重力すら歪めていた。
 だがその力はあまりにも大きく、制御しきれない。
爆弾の内部から放射される不気味な光が、フェニックスの炎を押し返すように脈動した。
 ジーンの顔に苦悶の色が浮かび、街全体に圧迫感が広がる。
「ジーン! ひとりで抱え込むな!」
 テレパシーの波動が届く。プロフェッサーXの声が彼女の心に直接響いた。ストームやサイクロップス、仲間たちも声を重ねる。
「わたしたちがいる!」
「一緒に止めよう!」
 だがジーンは唇を強く結び、首を横に振る。その瞳は炎に包まれ、他者の声を遮断していた。
 宇宙の彼方から追いついたキャロルも、光の尾を引きながら叫ぶ。
「ひとりじゃ持たない!」
 しかし、その声さえも届かない。フェニックスはただ爆弾の軌道を両腕で抱え込み、燃え盛る翼を絞り込んでいった。
「……これ以上はだれにも背負わせない……」
 心の奥底から零れるような独白が、炎の波動となって広がった。誰も入る余地のない孤独な決意。
 次の瞬間、爆弾の外殻が弾け、灼熱の奔流がジーンの体内に流れ込む。通常ならば大気ごと消滅させるだけのエネルギーを、彼女はその身に取り込んでいった。悲鳴はなかった。ただ翼がより鮮烈に燃え上がり、炎の鳥は白く輝きながら空を覆う。
 X-Menたちはその光景を呆然と見上げるしかなかった。
 上空からキャロルが手を伸ばすが、その炎は彼女さえ寄せつけない。ジーンはすべての声を拒み、ただ一人で破滅の力を抱きしめていた。
 やがて爆弾の光は消え、夜空を覆っていた火の羽が崩れ落ちる。残されたのは、眩い余韻と沈黙。ジーンの姿は炎の中心に溶け込み、仲間の目からは完全に見えなくなっていた。
 ニューヨークの人々は、その夜空を恐怖と畏敬の入り混じった眼差しで見上げた。救済なのか、破滅なのか。誰の声も届かぬまま、ジーン・グレイは自らを犠牲にして、世界を覆う爆発を飲み込んでしまった。
 人々は息を呑み、燃え盛る夜空を見守った。

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「こんなことするべきじゃない。地球人を怒らせるべきじゃない」
 マキシマスの言葉にメドゥーサは眉ひとつ動かさなかった。お付きのものに髪を梳かせて鏡を見ていた。
「あなたの意見は聞いてない。そもそもあなたに発言権はないのよ、マキシマス。炭鉱に行かずにすんでることを夫に感謝するのが筋でしょう?無能力者のくせに、王家に楯突くなんて」
「地球人の戦闘力を甘くみるな。この短期間に、サノスとフェニックスとファランクスを退けたんだ。彼らの戦闘力はクリーやシーアに匹敵する」
「そんな強いひとたちが、わたしたちの味方になってくれるなんて、素晴らしいことじゃない!あたしアベンジャーズになるんだよ!」
 無邪気なクリスタルは明日スティーブ・ロジャースに「2度と顔を見せるな」と言われることを知らない。
 彼はアティラン王家がテリジェンボムを地球に落としたことを最期まで許さなかった。
「なぜ爆弾を落として味方になってもらえると思えるんだ」
「フェニックスを止めたのよ、あたしたちはヒーローでしょう?2人ともはやく出ていって。これから王と大事な仕事があるから」
 そういって薄手のローブを脱ぎ捨てる。いまさら妹や義弟に裸を見られてもメドゥーサはなにも思わない。むしろ見せつけるように夫にまたがった。
 マキシマスは目を背ける。両親を殺してしまった日から、口を半開きにして虚空を見ている兄を見ていたくなかった。
 クリスタルも服を脱ぎ出したので、もう限界だった。
マキシマスは自分の研究室に戻ることにした。
 スティーブ・ロジャースに謝意を伝えなければならない。
 自分たちを攻撃しないでほしいと頼んだ日に爆弾を落としたのだ。アメリカ政府の怒りをアティラン王家に向けられては、ひとたまりもない。
「なにか手を打たなくては」
 そういって自分の研究室に戻ったとき、違和感はたしかにあった。だが気付けなかった。いつもなら、研究員がいるはずなのに、だれもいなかった。機械も動いていなかった。静かだった。
 その静けさに気づくことができないまま、話しかけられた。
「本当にすごく残念だと思ってる。わたしはキミともおしゃべりがしたかったんだけどね。時代がそれを許さないようだ」
 マキシマスが後ろを振り向いたとき、最後に見たのは赤い髑髏だった。銃を構えたレッドスカルはためらいもせず、マキシマスを撃った。
 そして、少しだけ待った。
狂った王の弟は、脇腹を押さえながら立ち上がった。その口は、別の意志で「ハイル・ヒドラ」と告げた。
「おはよう、カルビン・ザボ博士。ここは我々と相性のいい土地だ。よろしくお願いするよ」
「おまかせあれ」
 そういって笑うマキシマスではないもの。恭しくスカルに頭を下げる。レッドスカルは実験が成功したことに、ご機嫌だった。
 弟が死んだことを、兄は長い間知らないままだった。

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